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BLの終焉

Rあり、男性同士の恋愛小説を載せております。

Shangri‐La 41 

Shangri‐La 41




「悠也さんの仰る読み聞かせというのは
どちらで?」

「そうだね…サンルームがいいな」

「子供の読み聞かせは寝かせる時と決まってるんですが…」

「サンルームで昼寝がてらでいいじゃないか。
あそこは暖かいし…」

「サンルームで有島…いいですよ
食事終わったら用意します」

と、言っても文庫本持っていくだけだ。
それと飲み物、ダウンケット…か。

サンルームにはカウチソファがあって
よく彼は利用してる。

僕は王様が座るみたいな革の椅子で
ソファの彼をあやすんだ。

「……以前やったことありました?」

彼にダウンケットを掛け
椅子に戻り聞いてみた。

「生まれて初めてじゃないかな」

初めて!?

「どうして今なんですか?」

「私はきみの声が好きなんだ。
アルトとカストラートの間のような
少年ぽくありつつ艶のある声がたまらない。
その声で小説を読んで貰いたくなったんだ」

「…そうですか?
丸みの無い軽い声ですよ」

「きみの全てが細胞単位で好きだから
女神の声に聴こえる」

……

まあ、いいけども。
「…なぜ有島武郎を…?」

「有島武郎って夫のいる女性記者と不倫の上に
軽井沢で心中しただろ?きみの大嫌いなクズだ。
だけど子供は可愛がっていたらしいね」

「子供を可愛がっていたのと不倫心中は関係ありません。
クズはクズです。
学力だけは高かったクズです」


「はははっ 確かにあの時代にハーバードだから。ああ、きみがイヤな顔をしそうな言葉を残してるの知ってた?」

「……(愛の前に死がかくまで無力なものだとは此瞬間まで思はなかつた)
…ですか」

恥ずかしくないのかと思う、僕は。

悠也さんはロマンチストだから
こんな言葉がお気に入りなんだろう。

「波多野秋子に強要されたらしいね、自殺は」

「弱い人間です。
好きな相手なら尚更押し止めるべきでしょう。
梅雨に時期に1ヶ月も後に醜悪な姿で世間に曝され
みっともない限りです」

「女は怖いね。
自分のモノにできなきゃ死んでくれだってさ」

「そう言うの…好みだったんですか。
僕はそんなの願い下げです。
あなたには幸せになってほしいから
中途で投げ出したりしない」

「男は情があるから殺せない、
女は情があるから殺したい。
こんなまるっきり考えの違う生き物が
共存できる訳がない」

「共に生きる道しか僕には見えませんけどね」

「私もきみと生きることしかできないよ。
きみしか要らない。
有島は波多野を死なせることができたのか
きみの声で読んでもらえたら少しは理解できるのかと思ったんだ」

「理解したいですか?
クズを!?」

「クズだよ、確かに。
ただ全く理解できない行動だったのか
考えてみたくてね」

「…あなたの変わったところも好きですけど」

「その言葉だけで昇天しそうだ」

…なんと言うかー

「もう読んでいいんですか?」

「楽しみだな。
はい、どうぞっ」

……

まったくもう。

「…小さきものへ、有島武郎。
お前たちが大きくなって、一人前の人間に育ち上った時、――その時までお前たちのパパは生きているかいないか、それは分らない事だが――
父の書き残したものを繰拡くりひろげて見る機会があるだろうと思う。
その時この小さな書き物もお前たちの眼の前に現われ出るだろう。
時はどんどん移って行く。お前たちの父なる私がその時お前たちにどう映うつるか、それは想像も出来ない事だ。
恐らく私が今ここで、過ぎ去ろうとする時代を嗤わらい憐あわれんでいるように、
お前たちも私の古臭い心持を嗤い憐れむのかも知れない。
私はお前たちの為ためにそうあらんことを祈っている。
お前たちは遠慮なく私を踏台にして、高い遠い所に私を乗り越えて進まなければ間違っているのだ。
然しながらお前たちをどんなに深く愛したものがこの世にいるか、
或はいたかという事実は、永久にお前たちに必要なものだと私は思うのだ。
お前たちがこの書き物を読んで、私の思想の未熟で頑固がんこなのを嗤う間にも、
私たちの愛はお前たちを暖め、慰め、励まし、
人生の可能性をお前たちの心に味覚させずにおかないと私は思っている。
だからこの書き物を私はお前たちにあてて書く…」


「…いいね…たまんないね…」

恍惚の表情で悠也さんが呟いた。



…むしろ憧れているんだろうか…

死でしか表現できなかった脱け殻のような愛に。




続く




本日も沢山の拍手、ご訪問ありがとうございました。

Category: 大野敦の憂鬱 21

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