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BLの終焉

Rあり、男性同士の恋愛小説を載せております。

Shangri‐La 51 

Shangri‐La 51





きっちり30分だけ寝かせて貰って
悠也さんに部屋着を着せると
読み聞かせの続きをリビングで再開した。

ゲスだとしか思えない作家の小説を
何故か彼が所望して。

とにかく嫌なことでも
(始めたことは最後まで)が僕の信条。


「十分人世は淋しい。私たちは唯そういって澄ましている事が出来るだろうか。
お前達と私とは、血を味った獣のように、愛を味った。
行こう、そして出来るだけ私たちの周囲を淋しさから救うために働こう。
私はお前たちを愛した。そして永遠に愛する。
それはお前たちから親としての報酬を受けるためにいうのではない。
お前たちを愛する事を教えてくれたお前たちに私の要求するものは、
ただ私の感謝を受取って貰いたいという事だけだ。
お前たちが一人前に育ち上った時、私は死んでいるかも知れない。
一生懸命に働いているかも知れない。
…働いちゃいない…心中で死んでますよ、あなたは」

「あははははっ
敦くん可笑しくて腹が痛くなるからチャチャを入れないでくれ」

「……かしこまりました。
えっと、
…老衰して物の役に立たないようになっているかも知れない。
然しいずれの場合にしろ、お前たちの助けなければならないものは私ではない。
お前たちの若々しい力は既に下り坂に向おうとする私などに煩らわされていてはならない。
斃れた親を喰くい尽して力を貯える獅子の子のように力強く勇ましく
私を振り捨てて人生に乗り出して行くがいい。
……
言うことは素晴らしいですが結果アレでは
子供は救われません。
一生心中した作家の子供だと言われるんです。
それが幸せですか?」

「…辛いだろうが過去に縛られ生きるのは愚かだ。
未来を見つめて生きるべきだろう?」

「お言葉ですが、他者は必ずそう言います。
過去は過去、過ぎ去った時間は戻らないと。
けれどすっかり忘れることは死ぬより
難しく思います」

「…敦くんの見解が正しい。
こればかりは経験がないから同じ気持ちを
共有できないんだろう。
ただ、私は永久に寄り添うから少しは
気が紛れるんじゃないかな」

「…僕は良い思い出しか持っていません。
だから心配しないで下さい。
あなたと共に生きると決めてから
事故のことを忘れています。
いつか全く思い出さなくなりますよ」

年々薄れていく記憶もある。
大好きな父に庇われた時の左腕温かさ…
そして冷たくなっていく感覚。
肉親がこの世のひとでなくなる瞬間を知った苦しみ。

ひとつひとつ、ちょっとづつ薄れていくと良い。

貧しくとも楽しく幸福だった思い出だけ持っていたいと思う。

「きみのお父さんは優しかった、可愛がってくれた、
誰よりも愛してくれた。
…それは忘れないだろう?」

「…そうですね」

繋いだ手の温かさや頭を撫でてくれるくすぐったいような感触はー
覚えてる。

覚えてるし悠也さんに触れると
思い出す。




「今時計は夜中を過ぎて一時十五分を指している。
しんと静まった夜の沈黙の中にお前たちの平和な寝息だけが
幽かにこの部屋に聞こえて来る。
私の眼の前にはお前たちの叔母が母上にと贈られた薔薇の花が
写真の前に置かれている。
それにつけて思い出すのは私があの写真を撮とってやった時だ。
その時お前たちの中に一番年たけたものが母上の胎に宿っていた。
母上は自分でも分らない不思議な望みと恐れとで始終心をなやましていた。
その頃の母上は殊に美しかった。
希臘ギリシャの母の真似まねだといって、
部屋の中にいい肖像を飾っていた。その中にはミネルバの像や、
ゲーテや、クロムウェルや、ナイティンゲール女史やの肖像があった。
その少女じみた野心をその時の私は軽い皮肉の心で観ていたが、
今から思うとただ笑い捨ててしまうことはどうしても出来ない。
私がお前たちの母上の写真を撮ってやろうといったら、
思う存分化粧をして一番の晴着を着て、私の二階の書斎に這入って来た。
私はむしろ驚いてその姿を眺めた。母上は淋しく笑って私にいった。
産は女の出陣だ。いい子を生むか死ぬか、そのどっちかだ。
だから死際の装いをしたのだ。――その時も私は心なく笑ってしまった。
然し、今はそれも笑ってはいられない。
…所詮夫婦など他人ですから馬鹿にしたり笑ったりしますよ」

「私ときみの関係のようにはいかないさ」

「ですよね、続けます。
…深夜の沈黙は私を厳粛にする。
私の前には机を隔ててお前たちの母上が坐っているようにさえ思う。
その母上の愛は遺書にあるようにお前たちを護らずにはいないだろう。
よく眠れ。不可思議な時というものの作用にお前たちを打任してよく眠れ。
そうして明日は昨日よりも大きく賢くなって、寝床の中から跳り出して来い。
私は私の役目をなし遂げる事に全力を尽すだろう。
私の一生が如何いかに失敗であろうとも、
又私が如何なる誘惑に打負けようとも、
お前たちは私の足跡に不純な何物をも見出し得ないだけの事はする。
きっとする。お前たちは私の斃れた所から新しく歩み出さねばならないのだ。
然しどちらの方向にどう歩まねばならぬかは、
かすかながらにもお前達は私の足跡から探し出す事が出来るだろう。
小さき者よ。
不幸なそして同時に幸福なお前たちの父と母との祝福を胸にしめて
人の世の旅に登れ。
前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。
恐れない者の前に道は開ける。
行け。勇んで。小さき者よ。
……
…はい、読了しました」

「ありがとう。
お疲れ様」

「しかし…著者も子供と共に恐れず進むべきでしたね。
感謝していると言ってますが不倫相手と心中では
恩を仇で返すのと同じです。
自分だけ下りてそれも最悪な形で…
言い訳もできませんよ。
何故生きて苦しむことをせず逃げたのか。
卑怯極まりないです」

「卑怯ではある」

「僕は逃げない。
だから、こんな人間は大嫌いです」

「…小さき者は守られるべき者かな。
親は無くとも子は育つって言葉があるけれど
きみのように真っ直ぐ育つ子もいるじゃないか」

「僕は自分の責任を放棄して楽な方に
逃げたことに腹が立つんです」

「…そうか」

「時に生きることは死ぬより辛いと言いますが
僕は死んだことがないので
ソコのところは分かりませんね」

「…死んだ方が楽だと敦くんは思ったこと…
ある?」

「父が亡くなった直後に美談にされ
身を寄せていた祖母の家にまでマスコミが来た時
一番辛かったです。でも死んだ方がマシだとは
思ったことありません。
今は…何があっても死ねませんけど」

「それは私を置いて行ったら家の中が
ぐちゃぐちゃになるから―
って事かな」

「それもあります」

「……え…」

からかい甲斐があるのは
あなたも同じですよ。

「約束は守らないと。
共に生き、共に死ぬと言ってしまいましたので」

「あはは!
そうそう。約束は絶対だ。
約束を守るのはきみの矜持でもある」

「…先程読んだ小説はつまり遺書です。
世間の方にも向けて遺書を書くとは
つくづく呆れます」

「少なくとも我々には遺書など必要ない」

「―そう言う事にしておきましょう」

「ふふっ
さて、明日はどうする?
何か楽しいことをしようか」

「明日もですか?
明日はゆっくりすればいいと思いますけど。
僕は嫌な小説読んで疲れました」

僕のことを想って吐き出させようと画策し
この小説を読ませたのは分かってるけど…僕は読んだことがあって
ものすごく理不尽な話しだとしか感じなかった。
が、悠也さんの優しさが嬉しい。

「それじゃきみを労わらないといけないね。
明日のことは私が考えよう」


悠也さんが僕を?

……トリッキーなことは…嫌だな。




続く



本日も沢山の拍手、ご訪問ありがとうございました。
ゴメンナサイ、ゴメンナサイ( ;∀;)

Category: 大野敦の憂鬱 21

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